無題

「疲れたな。」
「ああ、疲れたな。」
「もうどんぐらい歩いたっけか。」
「三時間ぐらいだな。」
「そんなにか。」
「そんなにだ。」
「まだ着かないか。」
「もう少しで着くさ。」
「だいぶ日が傾いてきたな。」
「なあに、このペースで行けば暗くなりきる前に着くさ。」
「そうか。」
「そうさ。」
「…。」
「…。」




「暗くなっちまったな。」
「ああ、暗くなっちまった。」
「ここらへんでビバークしたほうがいいんじゃないか。」
「そうだな。これ以上歩くのは危険だな。」
「これって道に迷ったってことか。」
「どうやらそうみたいだ。」
「まいったな。」
「まいった。」




「食料は。」
「一食分しかない。」
「あちゃー。」
「わずかだが、分けるしかないな。」
「そうだな。」




「うまいな。」
「ああ、うまい。」
「明日、ちゃんと帰れるかな」
「なあに、帰るさ。」
「うん、帰らなきゃな。」「…。」
「…。」




「寒いな。」
「ああ、寒い。」
「火をおこすものは。」
「マッチが何本か。」
「これ火着くかな。」
「どうかな、湿気てるな。」
「他には。」
「何もないな。」
「寒いな。」
「ああ、寒い。」




「火、着かないな。」
「着かないな。」
「そういえばさ、裸でさ、くっついてると温かいらしいな。」
「そうらしいな。」
「…。」
「…。」




「…温かいな。」
「…ああ、温かい。」
「変な感じだな。」
「こそばゆいな。」
「しかしぬくいな。」
「ああ、ぬくい。」
「明日帰れるかな。」
「…還るさ。」





「ぬくいな。」
「ぬくいよ。」
「生きてるな。」
「生きてるよ。」
「ぬくいな。」
「ぬくいよ。」
「眠いな。」
「眠いね。」
「寝ようか。」
「ああ、寝なきゃな。」
「おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」









「寒いな。」


「寒いだろう。」


「寒いよな。」


「還ろう。」


「還るぞ。」


「還るさ。」


「歩こう。」


「歩こう。」


「歩こう。」


「歩こう。」


「歩こう。」


「歩こう。」


「歩こう。」